24.05.22
NEW
筋腸相関とは
こんにちは、医師の中島です。 最近は徐々に暑さが厳しくなってきて、これから梅雨を迎えますね。 雨の日が多くなると運動の機会も減ると思いますが、今回は、雨の日でも自宅で筋トレでもやってみようかなと思える話題です。 近年の腸活ブームもあり、腸の環境を整えることが重要であることは周知されつつあります。 脳と腸が互いに影響を及ぼす「脳腸相関」についてご存知の方も多いかと思いますが、近年新たに筋肉と腸が影響し合う「筋腸相関」の仕組みが解明されつつあります。 〜筋肉から腸へ〜 筋肉から分泌される生理活性物質の総称をマイオカインと呼びますが、運動すると分泌される善玉マイオカインが骨や血管、脳や腸といった全身の臓器に良い影響を与えることがわかってきています。 40種類以上あるマイオカインのうちのIL-6やアイリシンというホルモンは肥満や糖尿病の予防、IGF-1は認知症やうつ病の予防効果が期待できますが、特にSPARC (=secreted protein acidic and rich in cysteine)は大腸がんとの関わりが明らかになっているマイオカインです。 SPARCは大腸がんの芽になる細胞の目印を認識し、アポトーシス(細胞死)を導き、直接的に大腸がんを予防することが確認されています。運動によって筋肉中で増えたSPARCは血流を介して腸に到達し、大腸がんを抑制すると考えられています。また、SPARCにはインスリンの分泌や感受性を高める働きもあるため、高血糖、高インスリン状態が引き起こす腸の炎症やがん細胞の増殖を抑えることによって間接的に大腸がんを予防している可能性も示されています。 このように、筋トレでも有酸素運動でも、筋肉を使うことで大腸癌を予防できる可能性が高いのは運動へのモチベーションが上がりますね。 〜腸から筋肉へ〜 また、腸で吸収された食べ物が筋肉に影響を及ぼすメカニズムについても研究が進められています。 食品添加物や高脂肪・高糖質食を長年摂り続けると腸バリア機能が低下し、炎症物質が筋肉に達して慢性炎症状態となり、持久カの低下や疲労感をもたらすのみならず、筋肉の代謝を高めるミトコンドリアの機能が低下し、マイオカインの分泌も低下する、ということにつながります。 逆に腸内環境に良い成分を摂れば筋肉量やエネルギー代謝量のアップにも繋がります。 乳酸菌や食物繊維を積極的に摂り腸内環境を整えることに加え、「筋腸相関」に好影響をもたらす食品成分として以下のようなものがあります。 抗酸化成分であるアスタキサンチン、βカロテン、レスベラトロールは筋肥大効果が高くなり、ラクトコッカスクレモリス発酵乳(カスピ海ヨーグルト)は筋タンパク質合成能が高まり、骨格筋量が維持されることがわかっています。 また、緑茶よりもカテキン、ルテイン、食物繊維の含有量が多い抹茶の摂取によっても筋トレによる効果が高まる可能性があるということです。 このように日常生活に少し筋トレを取り入れることで、生活習慣病や認知症、大腸癌の予防につながるので、無理のない範囲で筋トレを始めてみませんか? 週の中日ですね、一息ついて後半もがんばりましょう。 [参考文献] ・Gut. 2013 Jun;62(6):882-9. ・Biochem Biophys Res Commun. 2022 Jul 5;612:176-180.